監修医師中山 潤一 医師(医療法人社団佳和会 理事長)
日本整形外科学会認定 専門医 / 医学博士 / 明石市医師会理事 / 明石市整形外科医会会長

「せっかく病院で膝の水を抜いてもらったのに、また溜まってきてしまった…」
そんな経験はありませんか?
実は、こうしたお悩みで来院される患者さんはとても多いのです。水を抜くだけでは、膝のトラブルそのものが解決することはなかなかありません。
ただ、抜き取った関節液の「色」や性状は、膝の中で何が起きているかを知るための、とても重要な手がかりになります。
このコラムでは、膝の水を抜く意味、抜いた水の色からわかる原因疾患、そして根本的な改善につなげる治療法について、専門医の立場から詳しく解説します。

目次
「膝に溜まった水を抜く」という処置について、まずはその仕組みから見ていきましょう。膝の水を抜く処置は、医学的には関節穿刺(かんせつせんし)と呼ばれます。
難しそうに聞こえるかもしれませんが、実際はとてもシンプルで、膝関節に細い注射針を刺して、溜まっている水を注射器でゆっくり吸い出していく処置です。
処置自体は数分で完了し、簡易な手技として外来診療で広く行われています[1]。
膝に溜まる水の正体は、「関節液」という体液です。
この関節液は、関節がスムーズに動くよう潤滑油のような役割を果たしてくれている、とても大切なものです。
ところが、何らかの原因で滑膜(かつまく)という組織に炎症が生じると、関節液が必要以上に分泌されてしまいます。行き場を失った関節液が関節の中に溜まっていき、その結果、膝がパンパンに腫れ上がってしまうのです。
こうした状態を、医学的には「関節水腫(かんせつすいしゅ)」と呼んでいます。
では、この関節液を抜く関節穿刺には、どのような意義があるのでしょうか。関節穿刺には、大きく分けて2つの目的があります。
つまり関節穿刺は、単に水を抜くだけの処置ではなく、原因を見極めるための検査としての役割も併せ持っているのです。
ただし、「水を抜いてもまた溜まってしまう」というご経験から、処置そのものに疑問を抱く方も少なくありません。次に、その背景について解説していきます。
「水を抜いても意味がない」
「一時しのぎに過ぎない」
といった声を耳にすることがあります。なぜそう言われるのか、 医学的な立場から整理してお話しします。
関節穿刺は、あくまで対症療法です。溜まった関節液を排出することで腫れや痛みを一時的に和らげる処置であり、関節液の過剰産生を引き起こしている炎症そのものを抑えるものではありません。
そのため、原因疾患が改善しない限り関節液は再び貯留します。これは穿刺という処置によるものではなく、滑膜の炎症が続いている間は関節液の産生が抑えられないためです。
重要なのは、水を抜くかどうかではなく、なぜ水が溜まるのかを突き止め、原因疾患そのものを治療することです。これが、整形外科の現場で共通する考え方です。
関連記事:膝に水が溜まる原因は?の症状は放置しても大丈夫?専門医が解説
「一度水を抜くと癖になって、何度も抜かなければならなくなる」お話を耳にすることがありますが 、医学的には誤りです。
関節液はもともと滑膜から絶えず産生され、同時に吸収されることでバランスを保っています。しかし炎症が続いている限り、産生量が吸収量を上回ってしまい、再び関節内に貯留してしまうのです。
つまり「抜いたから溜まる」のではなく、「溜まる状態が続いているから、抜いても再び溜まる」というのが正しい解釈です。
ここまで関節穿刺の役割についてお話ししてきましたが、その大きな意義のひとつが、 抜き取った関節液の色や性状を観察することで、背景にある疾患をある程度推定できる点にあります。
正常な関節液は粘り気のある黄色みの透明色をしていますが、炎症の原因によってその性状は特徴的に変化します[2]。
慢性的な経過で水が溜まり、抜いた関節液が淡黄色で透明感を保っている場合、変形性膝関節症が疑われます。軟骨がすり減ることで炎症が起き、粘り気のある濃い黄色の関節液が増えます。液体の中に白くて小さな軟骨の破片が浮いて見えることもあります。
関節液が赤色や褐色を呈している場合、関節内で出血が起きている可能性が高く、以下のような外傷が疑われます[3]。
特に、スポーツ中の受傷や転倒のあとに急激な腫れが生じたケースでは、関節内出血が起きている可能性があります。
関節液が黄白色〜白色に濁っている場合は、化膿性関節炎(細菌感染による関節炎) や、痛風・偽痛風といった結晶性関節炎が疑われます[1],[2]。
化膿性関節炎は、関節内で細菌が増殖することにより、関節の強い痛み・腫れ・発赤・熱感に加え、発熱を伴うのが特徴です。一方、痛風は尿酸塩結晶、偽痛風はピロリン酸カルシウム結晶が関節内に沈着することで急性の炎症を引き起こします。
リウマチや慢性的な感染症のサインである場合があります[2]。関節リウマチは全身の関節が炎症を起こす自己免疫疾患で、膝だけでなく手指や他の関節にも症状が出ることが特徴です。
ただし、関節液の色や性状はあくまで〝診断の手がかりのひとつ〟にすぎません。例えば関節リウマチのように、血液検査(リウマトイド因子・抗CCP抗体など)や画像検査を組み合わせて初めて確定診断に至る疾患もあります。自己判断は避け、整形外科専門医による総合的な診察を受けることが大切です。
関節穿刺によって水を抜き、その色や性状からある程度の見当がついたら、次は根本的な治療方針を決める段階に進みます。
関節液の性状だけでは判断しきれないケースでは、MRI検査が有力な手段となります。MRIはレントゲンでは写らない軟骨・半月板・靭帯・滑膜の状態を詳細に描出できるため、水が溜まっている根本原因を特定するうえで欠かせない検査[4]です。
原因が特定されれば、それに応じた治療を検討していきます。代表的な選択肢は以下のとおりです。
特に再生医療は、ヒアルロン酸注射などで十分な効果が得られなかった変形性膝関節症の方や、手術までは踏み切れない方にとって、もうひとつの選択肢となる治療法です。患者さんご自身の血液や脂肪組織から抽出した成分を用いるため、体への負担が比較的少ない点が特徴です。
ここまで治療の選択肢をお話ししてきましたが、適切な治療につなげるためには、まず整形外科の診察を受けることが何より重要です。
以下のようなサインがみられる場合は、できるだけ早く整形外科を受診してください。
特に、発熱と膝の熱感をともなうケースでは化膿性関節炎の可能性があり、一刻も早い治療開始が必要です。また、外傷後に急速に膝が腫れるケースでは、関節内出血が起きている可能性が高く、早期のMRI検査をおすすめします。
中山クリニック再生医療センターでは、原因の究明だけでなく、現在の膝の状態を踏まえた今後の方針についても、わかりやすくご説明・ご提案しております。
長引く膝の痛みや膝に水が溜まってお困りの方は、「はじめての方へ」をぜひご覧ください。
コラムのポイント
参考
人工関節以外の
新たな選択肢「再生医療」