監修医師中山 潤一 医師(医療法人社団佳和会 理事長)
日本整形外科学会認定 専門医 / 医学博士 / 明石市整形外科医会会長


目次
加齢や膝への負担の蓄積により関節軟骨がすり減ることで、膝の痛みや動きの制限を引き起こす疾患です。
中高年に多く見られ、進行すると炎症や組織変性、骨の変形を伴うことがあります[1]
変形性膝関節症の主な症状は、膝の痛みと関節の変形です。進行に伴って膝の動かせる範囲が徐々に狭くなり、末期には日常生活に大きな支障をきたすようになります。
例えば、正座やしゃがみ込み、階段の上り下りがつらくなり、動き始めに痛む、素早く動けない、歩くとふらつくといった症状がみられます。
関節疾患は要介護状態の主要な原因の一つとされており[2]、放置した場合、将来的に介護を要するリスクが高まる可能性があります。
初期:痛みが出始める段階
中期:炎症・可動域制限が進む段階
末期:変形が進み生活動作が困難な段階
痛みの原因は、ひざ関節の内側を覆う「滑膜(かつまく)」の炎症です[3]。
関節の中は関節液で満たされていますが、軟骨がすり減る過程で生じた微細な「軟骨片」が滑膜を刺激し、炎症につながります。
本来、軟骨の表面は非常に滑らかで、摩擦に強い構造です。しかし、ひざは日常生活の中で何千回も曲げ伸ばしされ、長い年月にわたり負荷が積み重なります。その結果、軟骨表面が徐々に摩耗して削り取られ、細かな軟骨片が生じるようになります。これらの軟骨片が滑膜を刺激し、炎症を引き起こします。

ひざが変形していく背景には、関節のクッションである軟骨がすり減り、骨にかかる負担が増えることが挙げられます。軟骨が薄くなると、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)が直接こすれ合い、互いの骨をすり減らしてしまいます。
骨は刺激に反応して形を変える性質があるため、負担が集中する部位では、骨が増殖するような変化が起こり、その一部が関節の縁に突き出すことがあります。これが「骨棘(こっきょく)」です。
骨棘の形成は、O脚・X脚などのアライメント異常(脚の形の崩れ)と密接に関連しており[4]、痛みも強くなります。やがて、ひざを動かさなくても痛みが生じるようになると、手術治療の検討が必要になります。

変形性膝関節症は、年齢とともに増加する傾向があり、女性に多くみられます[5]。原因が一つに特定されているわけではありませんが、①男性と比較して関節が小さく骨形態が異なること、②筋肉量が少ないこと、③日常生活における膝への力学的負担、④閉経後のホルモン低下―などが影響していると考えられています[6]。そのほか、肥満やスポーツによるひざへの過度な負荷もリスク因子として報告されています[7]。
変形性膝関節症の診断は、診察で得られる所見に加え、画像検査などを元に総合的に行われます。

診察では、患者さまがどのような症状でお困りか、日常生活で支障となっていることは何かを丁寧にお伺いします。症状はご本人にしか説明できない大切な情報です。
伝え漏れのないよう、話す内容を事前にメモしてお持ちいただくと安心です。
●症状
●生活歴
●病歴
変形性膝関節症は進行に伴い、O脚・X脚などの脚の変形が強くなります。それに伴い、ひざがまっすぐ伸びにくい、歩幅が小さくなる、歩行が不安定になるといった変化がみられるのも特徴です。診察では、こうした所見を確認します。

●脚の形を見る
●歩き方を見る

ひざの内部や骨の状態を確認するために、レントゲン検査やMRI検査といった画像診断を行います。この他に、ひざに水がたまっている、強い腫れがあるなどのケースでは、ひざ関節の中にある関節液を少量抽出し、成分を調べる関節液検査を実施することもあります。
| レントゲン検査 | MRI検査 | 関節液検査 | |
|---|---|---|---|
| 検査の概要 | X線でひざを撮影し、骨の形や関節のすき間、変形の程度などを確認します。 | 磁気でひざを撮影し、関節内の組織(軟骨・半月板・靭帯など)の状態を画像で評価します。 | 必要に応じて関節液を採取して、炎症の程度や原因(感染・結晶など)を調べます。 |
| 分かること | 骨の変化や関節のすき間の狭まりから、変形性ひざ関節症の進行度が分かります。 | 軟骨や半月板の傷み、骨内状態も分かるため、異常所見および、変形性膝関節症のリスクも分かります。 | 関節炎を起こす疾患(変形性膝関節症、関節リウマチ、偽痛風、感染症など)を鑑別できます。 |
| 検査の目安 | 診察で骨や関節の異常が疑われる場合に行うことが多い基本の検査です。 | レントゲンで異常が確認できなかったり、治療の判断により詳細な情報が必要な場合に行います。 | ひざの腫れが強い、発熱や強い炎症など、変形性膝関節症以外の疾患が疑われる場合に行います。 |
当院では、MRI検査による評価と整形外科専門医の診察を同日に行い、再生医療が適しているかを判断する『ひざ再生医療・MRI即日診断』を行っています。
気になる方はぜひご相談ください。
診察や検査で膝の状態を評価し、進行度に合わせて治療を開始します。
治療法は「保存療法」と「手術療法」に大きく分けられます。
早い段階では保存療法が中心ですが、病状が進むにつれて、手術療法の検討が必要になります。
近年では、重度の方にも適応がある新たな治療法として再生医療が注目されています。


運動療法は進行度にかかわらず、多くの方で治療の基本となります。
脚の筋力強化は、ひざ関節の安定に役立ち、痛みの軽減や、ひざへの負担軽減に有効です[9]。
また、ストレッチで筋肉の柔軟性を保つことは、関節が動く範囲(可動域)を維持し、動かしやすさの改善にもつながります。
行う内容や適切な量は、病状によって異なります。具体的には、医師または理学療法士の指示に従うようにしましょう。

ひざの痛みが強いと、運動を避けがちになり、筋力低下につながりやすくなります。筋力が落ちると膝を支えにくくなり、さらに筋力が衰えるという悪循環に陥ることがあります。
薬物療法の目的は、痛みを和らげてこの悪循環を断ち、日常生活や運動を続けやすくすることです。

ひざ関節は内部が関節液で満たされており、この液体が潤滑の働きをしています。
ヒアルロン酸注射では、この関節液に近い性質をもつヒアルロン酸を関節内に注入し、関節面の滑りを整えるとともに、痛みを和らげます。
よく用いられる保存療法の一つです。
▶ 詳しくは「ヒアルロン酸注射」をご覧ください。

再生医療は、血液や脂肪などご自身の組織を材料にしてひざ関節の治療に活用する方法です。
ひざ関節の治療に活用する方法です。現在、ひざ治療で用いられる代表的なものとして、①PRP療法、②APS療法、③培養幹細胞治療があります。効果としては、炎症を改善したり、傷んだ軟骨や半月板の組織を修復させ、保護する作用により、組織の損傷の進行を遅らせる事が期待されます。
これまでは「薬や注射で様子を見る」か「手術をする」かで迷う方も少なくありませんでしたが、近年はその間の選択肢として再生医療が知られるようになってきました。
仕事や家庭の事情で入院が難しい方、年齢や体調面で手術が受けられない方にとって、新しい選択肢として注目されています。

保存療法を3〜6か月行っても症状改善が乏しく、痛みが強すぎて日常生活に著しい支障が出ている場合には手術療法を検討します。術式は大きく3種類で、進行度・年齢・全身状態・生活への影響などを踏まえて判断します。
| 関節鏡下手術 | 高位脛骨骨切り術 | 人工ひざ関節置換術 | |
|---|---|---|---|
| 特徴 | 損傷した半月板の一部や炎症を起こした滑膜、関節内に浮遊する軟骨片などを切除・除去します。 関節内の刺激となる要素を減らすことで、炎症や痛みの軽減を図ります。 |
脛骨(すねの骨)を膝に近い部分で骨切りし、脚の傾きを調整することで体重のかかり方の偏りを整えます。これにより、傷みが進んでいる部位への負担を改善します。 | すり減って変形した関節面を、人工物で置き換えます。関節全体を置き換える全置換術(TKA)と、傷みの強い部分のみを置き換える単顆置換術(UKA)があります。 |
| 入院期間 | 3~10日 | 4週間 | 4~6週間程度 |
| 日常生活に 戻るまでの時間 |
術後1~3週間 | 術後2〜3カ月 | 術後2〜3カ月 |
▶ 手術療法の詳細はコラム「変形性膝関節症の手術【費用/タイミング/術後の生活について】」をご覧ください。
完治は難しいですが、痛みを緩和させることは可能です
現時点では、すり減った軟骨を「元の状態に戻して治す」治療は確立していません。
しかし、治療することで痛みを緩和、もしくは解消し、軟骨がすり減るスピードを遅らせることは可能です。変形性膝関節症の治療では、この“いかに進行させないか”という点が重要なポイントとなります。
そのためにまず必要なのが、いまの膝がどんな状態なのかをきちんと把握することです。状態が分かると、遠回りせずに治療を進めやすくなります。
そのため当院では、MRI検査をお願いしています。これによって、触診では気づきにくい水腫や、骨以外の関節組織全体の状態を把握できます。
膝に強い負担がかかる動作はできるだけ控えることが大切です。
気を付けていただきたいのは、次のひざの負担になるような動作です。
可能な範囲で工夫して膝への負担を減らすことが、症状の悪化を防ぐうえで役立ちます。
腫れが強くて膝が曲げにくいときは、水を抜くことで楽になることがあります。
ひざに溜まる水の中には痛みや炎症を悪化させるサイトカインが含まれるので、痛みを緩和する意味でも有効です。
ただし、水がたまる背景には関節内の炎症が関与していることが多く、炎症の原因に対する治療を行わないと、再び水がたまる可能性があります。水を抜く処置とあわせて、炎症を抑える治療や運動療法などを並行して進めることが大切です。
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参考

(医療法人社団佳和会 理事長)