監修医師中山 潤一 医師(医療法人社団佳和会 理事長)
日本整形外科学会認定 専門医 / 医学博士 / 明石市医師会理事 / 明石市整形外科医会会長
「変形性膝関節症で、そろそろ手術を考えましょうと言われた」
「人工関節を入れたら、もう元の生活には戻れないのでは」
そんな思いを抱えて、決断に迷っている方も多いのではないでしょうか。
手術は、痛みから解放される大きな一歩になり得る一方で、身体への負担や術後の生活を考えると、簡単には決められない選択でもあります。
大切なのは、十分に理解したうえで納得して選ぶこと。
本コラムでは、整形外科専門医が変形性膝関節症の手術の種類から、後悔しないために決断前に知っておきたいことを解説します。

目次

まず、変形性膝関節症の手術にはどんな種類があるのか、というところからお話しします。
主に行われるのは、関節鏡視下手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術の3つです。
この3つは、進行度や年齢によって適応が異なるのはもちろん、そもそも手術が目指すゴールそのものが違います。
たとえば関節鏡視下手術が目指すのは、痛みをやわらげることです。傷んだ軟骨や半月板を整える、体への負担が少ない手術ですが、変形そのものを元に戻すことはできません。
一方、高位脛骨骨切り術と人工膝関節置換術は、関節の変形そのものを整えることを目的としています。
| 関節鏡視下手術 | 高位脛骨骨切り術 | 人工膝関節置換術 | |
|---|---|---|---|
| 概要 | 関節鏡で痛んだ軟骨片や半月板を切除・洗浄 | 脛骨を切りO脚を矯正、自分の関節を温存 | 傷んだ関節面を人工関節に置換 |
| 適応 | 初期~中期 痛みや変形の程度が軽い方 |
O脚変形、活動的な方 40~60代 |
末期 70代以上が目安 |
| 目的 | 痛みを緩和させること | 関節の変形を整えること | 関節の変形を整えること |
| メリット | 傷が小さい 早期に復帰できる |
関節を温存できる スポーツ復帰可能 |
痛みが大幅改善 長期成績も良好 |
| デメリット | 根治術ではない | 骨癒合に数か月かかる 長期的なリハビリが必要 |
正座・激しい運動に制限 15~20年ごとに人工関節の交換が必要 |
| 入院期間 | 1週間程度 | 3〜6週間程度 | 2週間〜2か月程度 |
| 手術費用 | 3割:5万円程度 1割:2万円程度 |
3割:10~12万円程度 1割:3~4万円程度 |
3割:24万円程度 1割:8万円程度 |
※費用は目安であり、入院期間やリハビリの程度で変動します。
すり減って剥がれた軟骨片、傷んだ半月板、炎症を起こしている滑膜などを取り除くことで痛みを軽減し、膝を動かしやすくする手術です。
手術では、膝に5mm〜1cm程度の小さな切開を数か所加え、そこから直径約4mmの細いカメラ(関節鏡)を関節の中に入れ、モニターに映し出された映像を見ながら、専用の器具で原因となっている組織を取り除いていきます。
この手術の良いところは、体への負担が小さいことです。ただ、根治術ではない点には注意が必要です。そのため、変形性膝関節症では、症状の比較的軽い方が対象となります。

【専門医が伝えたいこと】
関節鏡視下手術は、手術翌日から歩ける方も多く、復帰までの期間が短いという大きな利点があります。一方で、変形そのものを治す手術ではないため、軟骨のすり減りや骨の変形が進んでいる場合には十分な改善は望めません。手術の前に、MRIで膝の状態をしっかり確認しておくことが大切だと考えています。
O脚に変形した膝の荷重バランスを整えることで、痛みの軽減と変形の進行抑制を目指す手術です。 すねの骨(脛骨)の上あたりを切り、X脚の方向に角度を矯正したうえで、プレートとスクリューで固定します。
人工関節を使わないので、ご自身の関節をそのまま残せるのが大きな魅力です。スポーツや農作業など、活動的な生活に戻りたい方にも向いています。一方で、入院期間が比較的長く、固定したプレートを抜くための再手術(術後1〜2年後、約1週間の入院)が必要となる点には注意が必要です。
この手術には、2つの方法があります。
脛骨の内側に骨切りを行い、その隙間をくさび状に広げてから人工骨を入れてプレートで固定する方法です。
腓骨の骨切りが不要であることに加え、人工骨の素材が進歩したこともあり、今ではこの方法が広く使われています。

膝下にある脛骨の外側からくさび形に骨を取り除いたうえで、開いた断面を閉じ合わせ、プレート金属で固定する方法です。
脛骨を短くする分、長さのバランスを整える目的で、後方に位置する腓骨の一部もあわせて切除します。


【専門医が伝えたいこと】
手術のあとは、しばらく膝に体重をかけられない状態(免荷)になりますので、まずは松葉杖で歩く練習から始めます。その後は経過を見ながら、「体重の3分の1まで」「半分まで」というように、許可した範囲で少しずつ体重をかけていきます。切った骨がくっつくまでにはおよそ半年かかり、その間も定期的にレントゲンで確認していくため、リハビリは長期に及びます。
すり減って変形した関節の表面を取り除き、金属やポリエチレン製の人工関節に置き換える手術です。
保存療法や他の手術で十分な効果が得られない、進行期〜末期の変形性膝関節症で選ばれます。
この手術には、関節全体を置き換える「全置換術(TKA)」と、傷んだ部分のみを置き換える「単顆置換術(UKA)」の2種類があります。膝の変形の範囲や靭帯の状態によって、どちらが向いているかが変わってきます。
膝関節の内側・外側・膝蓋骨の裏側すべてを人工関節に置き換える方法です。変形が膝全体に及んでいる場合や、靭帯にも損傷がある場合に選ばれます。靭帯を切除するため、術後はひざを曲げられる角度に制限が出ます。手術時間は1〜2時間程度、入院期間は約2〜5週間が目安となります。

膝の傷んだ部分(内側または外側)だけを、人工関節に置き換える方法です。変形が一部にとどまっていて、靭帯機能が保たれている方が対象になります。
傷が小さく、関節周辺の組織へのダメージも少ないため、TKAに比べて回復が早い傾向があります。手術時間は1〜1.5時間程度、入院期間は約2〜4週間が目安です。


【専門医が伝えたいこと】
人工膝関節置換術は疼痛の大幅な改善が期待できる一方、術後は正座や激しい運動が難しくなり、術後のリハビリにもある程度の期間を要します。人工関節の耐用年数は15〜20年とされており、再手術のリスクを考慮すると、活動的な若い世代の方には、まず別の選択肢をおすすめすることが多いです。
ここまで3つの手術を見てきましたが、「では、自分はいつ手術を考えればいいんだろう」と思われた方も多いのではないでしょうか。
変形性膝関節症は、ある日突然手術が必要になる病気ではありません。
多くの場合、まずは保存療法(運動療法・薬物療法・注射など)から始めて、それでも良くならないときに、はじめて手術が選択肢にあがってきます。
では、どういう状態になったら手術を考えるサインなのか。
判断の手がかりになる3つのポイントを、順番にお話しします。
整形外科ではまず、レントゲン(X線)の画像をもとに、変形性膝関節症がどこまで進んでいるかを確認します。
このときよく使われるのが、 KL分類(Kellgren-Lawrence分類というものさしです。
関節の隙間がどれくらい狭くなっているか、骨棘(こっきょく:骨のトゲ状の変化)がどの程度あるかをもとに、重症度を5段階で評価します。
| グレード | 進行度 | 主な所見 |
|---|---|---|
| グレード0 | 正常 | 異常なし |
| グレード1 | 疑い | わずかな骨棘の可能性 |
| グレード2 | 軽度 | 関節裂隙の狭小化、軽度の骨棘 |
| グレード3 | 中等度 | 関節裂隙の明らかな狭小化、骨硬化像 |
| グレード4 | 高度(末期) | 骨同士が接触、著明な変形 |
一般的には、グレード3〜4まで進むと、手術を考える段階に入ってきます。特にグレード4になると、クッションの役割をしている軟骨がほとんどなくなり、骨と骨が直接ぶつかってしまうため、保存療法ではなかなか良くなりません。
ただ、ここで知っておいていただきたいことがあります。画像で見た変形の程度と、ご本人が感じる痛みの強さは、必ずしも一致しないのです。
グレードが進んでいても痛みは軽い方もいれば、逆にグレードは軽くても強く痛む方もいらっしゃいます。ですから、画像だけで手術を決めるのではなく、次にお話しする自覚症状とあわせて、総合的に判断していきます。
手術を考えるうえで、画像と並んで大事な判断材料になるのが、日常生活にどれくらい支障が出ているかです。同じ変形性膝関節症でも、症状の出方は人それぞれ。次のような状態が出てきたら、手術も含めて治療を見直すサインと考えてよいでしょう。
特に、「安静時や夜間にも痛む」 といった状態は、変形がかなり進行しているサインです
症状によって個人差はありますが、数か月から1年ほど保存療法(薬物療法やヒアルロン酸注射など)を続けても十分な効果が得られないときに、手術という選択肢を考えていきます。
こうした基準をもとに、主治医とよく相談したうえで手術を受けると決めたなら、次に大切になるのが「どこで、誰に手術してもらうか」です。
膝の手術は、執刀する医師の経験や、医療機関の体制によって結果が左右されることがあります。後悔を避けるために、次のような点を確認しておくとよいでしょう。
もし迷うようなら、セカンドオピニオン(他の医師の意見を聞くこと)を活用するのも良い方法です。主治医に遠慮する必要はなく、納得して手術に臨むための正当な権利です。
いくつかの意見を聞くことで、提案された治療方針への理解も深まり、結果として後悔のない選択につながります。
信頼できる医師が見つかったら、手術を受ける前に疑問や不安は残さず解消しておくことが大切です。
診察の際には、次のような点を確認しておきましょう。
わからないことはその場で質問する姿勢が大切です。
そして、医師への確認とあわせて準備しておきたいのが、費用に関することです。
手術や入院には、まとまった費用がかかります。
事前に費用の見通しを立て、利用できる制度を知っておくことで、金銭面の不安が軽くなります
代表的なのが高額療養費制度です。これは、1か月(同じ月の1日から末日まで)の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、超えた分が払い戻される公的な制度です。上限額は年齢や所得によって異なります。
事前に限度額適用認定証を準備しておくと、医療機関の窓口での支払いを最初から自己負担限度額までに抑えられ、高額な医療費を一時的に立て替えずにすむので、覚えておくと安心です。
マイナンバーカードを健康保険証として利用している場合は、認定証がなくても同様の取り扱いが受けられることがあります。
なお、高額療養費制度の自己負担上限額は、制度改正(2026年8月、2027年8月)によって見直しが予定されています。手術の時期によって負担額が変わる可能性があるため、最新の上限額や手続きについては、ご加入の健康保険組合や医療機関の相談窓口で確認しておいてください。

【専門医が伝えたいこと】
ひとつ、覚えておくと役立つことをお伝えします。この制度は月ごとに計算されるため、入院が月をまたぐと、別々の月として扱われてしまいます。可能であれば、入院から退院までが同じ月内におさまるよう、入院の時期を相談しておくのも一つの方法です。
ここまで、変形性膝関節症の手術について、その種類から検討のタイミング、準備や費用に至るまでお伝えしてきました。しかし、これらを知ったうえでも、「できることなら手術は避けたい」と感じる方は少なくないでしょう。
保存療法だけでは物足りない。
かといって、手術にはまだ踏み切れない。
そんな”あいだ”の選択肢として、近年注目されているのが再生医療です。

再生医療とは、患者さまご自身の血液や組織に含まれる成分を利用して、傷ついた組織の修復や炎症の抑制を促す治療法です。
手術のように関節を切ったり置き換えたりするのではなく、注射による治療が中心となるため、身体への負担が比較的小さいことが特徴です。
変形性膝関節症に対して行われる主な再生医療には、次のようなものがあります。
・PRP療法:ご自身の血液から抽出した血小板を濃縮し、関節内に注射する治療
・APS療法:PRPをさらに加工し、炎症を抑える成分などを高濃度に濃縮した治療
・培養幹細胞治療:ご自身の脂肪などから採取した幹細胞を培養し、関節内に投与する治療
これらの治療は、いずれも入院を必要とせず、外来で受けられるため、治療後のあとすぐに日常生活へ戻れる点が、手術との大きな違いです。
「手術は避けたいけれど、できる治療は試したい」という方にとって、検討してみる価値のある選択肢といえるでしょう。
当院が行う再生医療の詳細については、こちらをご覧ください。
コラムのポイント
人工関節以外の
新たな選択肢「再生医療」